§1線形代数学について

Introduction

線形代数学を学ぶ人に向けて、ある程度体系的に話を進めます。学習の助けにしてくださったら幸いです。

 

線形代数学は、科学全般に通ずる基礎数学の一つとよく言われます。

なぜなら、多くの自然現象は定量化すると「線形」なる性質を持つからです。

例:重力場、電磁場、人工衛星の運動表現、etc.

これら個々の「線形な物理現象」を一から調べるよりも、先に抽象的な数学として「線形な集合」を研究しておけば、いざ自然現象の研究をするとなったときに応用が利きます。

一言してしまえば、

多くの科学を理解するうえで線形代数学は重要である

ということです。

 

今回は、線形代数学が何を研究する分野なのかを具体的に考えてみます。

§1線形代数学について

§1.1代数学について

まずは「代数学」という言葉についてお話しします。

代数学(Algebra)とは、古来は「方程式論」をやっていた分野です。

例えば、代数方程式

 a _ n x ^ n + ... + a _ 1 x + a _ 0 = 0 ∧ a _ n ≠ 0

は、重解を許せばn個の複素数解を持ちます。これを代数学の基本定理と言いますが、この証明をしたりしました。

現代に近づくと、 数学は「集合論」へと傾いていきます。代数学の場合、「集合と算法のセット」の研究にシフトしていったそうです。(これらを研究することで、方程式論の諸問題を綺麗に扱うことができたりするとのこと。)

以下では、「集合と算法のセット」を定義します。

def:算法

 S,T,Ωを集合とする。但しTはS×Sの部分集合

 写像  ○:T → S  をSの内算法(演算)という

 (T = S のとき、「Sはこの演算について閉じている」という)

 写像 □:Ω × S → S をSの外算法(作用)という

  (Ωを外算法□の作用域という)

 

 

注意として、これらの写像を以下のように略記する慣習があります。

 ○(a,b) = a ○ b , □(a,b) = a □ b

ex:算法

算法の例を挙げます。

①よくある加法や乗法は内算法です。

加法: (1, 2 ) ↦ 1 + 2

乗法: (1, 2 ) ↦ 1 × 2

②ベクトルのスカラ―倍は外算法です。

スカラ―倍: ( 2 , (1,2) )  ↦  2 (1,2) 

def:代数系

 Sを集合、

 ○_ 1 ,○ _ 2 , ... , ○ _ n をSの内算法、□ _ 1 , □ _ 2 , ... , □ _m をSの外算法とする。 

 ( S , ○ _ 1 , ... , ○ _ n , □ _ 1 , ... , □ _ m ) を代数系という

 

 

代数系というのは、ある集合と、その集合で定義した算法のセットのことです。

注意として、例えば上記の代数系をAと名付けたとすると、「SはAとなる」「SはAである」などと慣用的に表現することがあります。

 

では、いくつかの例を挙げます。

ex : 名前のある代数系

詳しくやるとキリが無いので、いくつか紹介するにとどめます。

①群:足し算と引き算について閉じています。 (  0のみの集合  など )

②環:足し算と引き算と掛け算について閉じています。( Z など )

③体:四則演算について閉じています( R , C など )

線形空間:加法とスカラ―倍について閉じています。

etc.

§1.2 線形代数学とは

線形代数学(Linear Algebra)とは、代数系線形空間」や「線形空間を成す集合間の写像」を研究する、代数学の一分野と言えます。

まとめ

今回は線形代数学の位置付けについてお話ししました。

次回は線形空間を定義し、様々な例を挙げます。