大学初等数学の準備(制作中)
Introduction
この記事は理系大学1年生を主に対象としています。他にも、数学の学習で詰まってしまっている方、今一度確認してみたい方なども対象となっています。
扱う内容は以下にまとめます。
・数学の文章を記号で書くための道具(論理演算子と量化記号)
・どの数学分野でも出てくる集合と写像の基礎
これらを選択した理由は、どの数学を学習するにしても役に立つという、著者の経験則に基づきます。また、他の記事を書いている際に、「これは補足が必要だな」と思われた要素でもあります。
いずれにせよ、役立て方は人それぞれだと思うので、有効活用していただけたら幸いです。
§1 数理論理学の基礎
数理論理学とは、命題を代数的に扱う学問です。
平易に表現するならば、
文章を記号で書いて、数式のように扱おう
という分野です。
情報系の学部はコンピュータ処理の基礎として学ばれる方がいらっしゃると思います。
ところが、情報系でなくとも、この分野の知識は有用です。なぜなら数学で扱う文章の多くは記号で書き表せられるからです。記号での表現に慣れると、曖昧に思えた文章の意味がはっきり分かったり、筆記数が減ることで頭がすっきりしたりします。
ここでは数理論理学を網羅する気はありませんが、そこで出てくる演算子や記号について紹介し、今後の数学学習に役立てていただくことを目指します。
§1.1 論理記号
def:命題
命題とは、その真偽を断定できる文章のことである。
def:論理記号
論理記号とは、命題を結合して新たな命題を作る演算子の記号である。
ex:論理記号で命題を書いてみる
A、Bは命題(命題変数)だとすると、
①AかつB ②AまたはB ③AならばB ④BならばA
もまた命題です。さらには、
⑤(AならばB)かつ(BならばA)
もまた命題です。
このように、接続詞「かつ」「または」「ならば」は命題を結合する演算子と言えます。
これらを記号で
かつ:∧ または:∨ ならば:→
と書くことにします。すると、上記の命題は以下のように簡単に書けます。
①A∧B ②A∨B ③A→B ④B→A ⑤(A→B)∧(B→A)
※⑤をA↔Bと書きます。
hint:真理値表
上で示した命題①~⑤は、A,Bの真偽によって真偽が決まるはずです。
逆に、論理記号の意味は、
「演算結果の真偽が命題変数A,Bの真偽に依ってどうなるか」で定義されます。
これをまとめた表が真理値表です。今回は深入りしませんが、調べたら出てくるので興味があれば検索してみてください。
§1.2 量化記号
直観的説明を心掛けてみます。
命題に自由変数が含まれるときがあります。これをある条件下に束縛することを量化と言いうことにします。例を使って説明します。
例1:
この例を見ると、確かには自由変数であり、が命題の真偽を決めます。
逆に、この命題の真偽を決めればこれはの条件式になります。
例2:
この命題は、「がに関する恒等式である」の意です。
この例を見ると、は自由変数ではなく、全てのについてであるという束縛を受けています。そして、この命題が真であると決めたとき、全てのについてである為に、の条件が決まります。
つまりこの命題の真偽を決めると、これはの条件式だと言えるのです。
このように、命題があったとき、
「すべてのについてが真である」という文章はを束縛し、は量化されたというのです。そして、これはではなくの条件式です。
また、命題があったとき、
「 が真であるような が存在する」という文章もまた、を束縛しているといえます。そしてこれは、そのようなが存在するような、の条件なのです。
以下で定義する2つの記号を量化記号と呼びます。
def:全称記号
def:特称記号
補足ですが、「∃!」は「唯一存在する」の意味になります。
remark:量化記号の順序に注意
以下の文章の違いに注意してください。
Aは「任意の実数に対してある実数が存在しを満たす」
と読み、
Bは「ある実数が存在し、任意の実数に対してを満たす」
と読みます。
これらの違いを考えてみます。
Aはがに依存して決まりますが、
Bはどんなに対してもが成り立つようなが存在しているだけです。
ex:量化記号を使った条件式
実際に量化記号を使った文章を読んでみましょう。
これは、
「任意の正実数に対し、
がよりも小さければ、
がより小さくなるような
正実数が存在する。」
という、との条件です。
ざっくり説明すると、を大きくとると、それに依存するは存在しやすくなります。逆に、を非常に小さくとっても、それに依存するは存在しにくくなります。
その厳しい中でこれが満たされると、
はのときに収束する
と言うことにしているのです。
これを論法と言います。
§2 集合と写像
集合と写像の概念は、現代数学を学ぶ上で最も基礎的な概念であると考えます。
高校で習う関数とは、実数全体の集合から実数全体の集合への写像であると説明できます。これを理解するために、集合と写像の概念を考えます。
§2.1 集合
def:集合
集合とは何かの集まりであり、その何かを要素と言います。
ex:集合
集合の例を挙げてみます。
①{1,2,3,4,5,...}
②{0,±1,±2,±3,±4,±5,...}
③
④
⑤
§2.2 写像
def:写像
は集合とします。の元との元を対応づける規則が以下を満たすとき、
をからへの写像と言います。
これは、写像によりの元に対応するBの元は必ず1つであるべきという要請です。
def:像
により対応するの元で集合を作ります。
{}
この集合をによる像といい、記号で表します。
def:単射
これは、像の元1つに対応づけられるの元は1つしか無いという条件です。この意味でを1対1写像などとも言います。
def:全射
これは、Bのどの元にもb=f(a)で対応づけられる元が存在するという条件です。像ImfがBに一致するという解釈も可能です。この比喩表現で、を上への写像とも言います。
def:全単射
∧
ところで、全射の条件はとも言えると述べました。
これにより、全単射の条件は
ともかけるのです。
このとき、逆対応規則を考えてみます。これは
より、
であり、は写像の条件を満たします。
まとめ
本記事では、
・論理記号を用いて文章を記号化する方法
・集合と写像の基礎概念
についてお話ししました。
これらが分かれば、数学書の解読が幾らか楽になると思います。